2022年7月19日放送のテレビ朝日「報道ステーション」で、フィギュアスケートの競技生活に幕を下ろし、プロのスケーターに転向すると発表した羽生結弦さんに、スポーツキャスターの松岡修造さんがインタビューした映像が放送されました。
この記事では、そのインタビュー内容をご紹介します。
報道ステーションインタビュー「決断への想い」
―― (松岡修造さん)世界からの思いも感じました。そして決意表明1時間ありました。思い伝わってきたんですよ。ただ、いつも羽生さんじゃないって僕は思った。すごい緊張してるというか。やっぱそれは思いがそれだけ強かったのかなともとれました。
(羽生結弦さん)そうですね。やはり緊張はしました。
実際、どのように受け取っていただけるのかもわからないですし、そもそも自分が現在思い描いているいわゆる引退っていう言葉、引退というイメージに対してかなり違ったイメージを持ちながら、今回記者会見に挑ませていただいたので、それを本当に伝えきれるのかなっていう不安もありました。
―― そこも踏まえて僕質問していきたいなと思うんですが、やっぱり僕今までのインタビューずっと振り返ってきて、勝負にこだわる羽生さんが僕はすごい好きなんです。
ちょっとこちら見ていただきたいんですけど…
(過去のインタビュー映像が流れる)
僕の原点っていうか、僕の今、心の奥底に絶対やっぱ勝ち負けなんですよ。
で、何のためにスケートやってるかって言われたら、やっぱ勝ちたいからなんですよね。
(2017年インタビューより)
自身のスケートっていうスポーツをやっていくにあたって、本当に生活の一つ一つを全てを切り刻んで、突き詰めて、スケートのためだけに全部結晶化させるような感じなんで、やっぱそこで負けるっていうのはもうすごいつらいことなんですよね(2019年インタビューより)
―― 僕は羽生さんからこういう想いを聞いてるだけに、今回勝負の舞台から降りたんだってそう捉えていいんでしょうか?
(羽生結弦さん)いやむしろ勝負の舞台から次の舞台に上がったって僕は思ってるんで。
それはある意味、その引退という言葉にもありますけど、これまでのいわゆるアマチュアスケーターから、プロスケーターへっていう道とは全然違った気持ちでいていただけたら僕は嬉しいなって思ってます。
だからそういう意味では、むしろこれからもその比較するっていう…その場で比較して評価を競うっていうものではなくなるかもしれないんですけども、常に自分と戦いながら、過去の自分と闘いながら、いやもっと今は上手いぞっていうことを見せながら、そして皆さんの期待とも闘いながら、もっともっと、そこに勝っていくんだっていう強い意志でこれからやっていきたいと思っています。
―― 今聞いた中で、周りとの競いというところが違うと考えると、やっぱり僕の中では2015年のね、「SEIMEI」っていう、まさに勝負勘というのが凄かったこちらなんですけど。
2015年ですよね。ノーミス、パーフェクトで。このときの勝負勘というのはどうとらえてますか?
(2015年 GPファイナル「SEIMEI」の映像が流れる)
(羽生結弦さん)正直このとき、若干風邪引いてて。
連戦で風邪引いちゃってて、めちゃくちゃ体しんどかったんですよね。
ただこの時思ったのは、精神と肉体のバランスがうまく取れれば絶対ノーミスでいけるという感じのことを多分言っていたと思うんですけど。
勝ちたいよりも、ノーミスしたいよりも、一生懸命やり切るみたいな感じでやれていたんですよね。
やっぱりそこの中には、みなさんが期待してくださった気持ちだとか、みなさんが思い描いてくださったたくさんの演技たちだったりとか、そういったものがあったおかげで、僕はこの演技はやり切れたなっていうのは思います。
「自分との闘い」限界を感じながらも…
―― そう考えると、勝負って周りと闘っているものとは違ったってことですか?
(羽生結弦さん)もうこのときはあんまり闘ってなかったかもしれないですね。むしろこのときが一番過去の自分が怖い時期でした。
―― えっ、どういうことですか?
(羽生結弦さん)やっぱりその前の試合で始めて300点というものを超えて、そこからすぐにまた試合があって、正直体がそんなに簡単にもつものではないですし。
で、正直言ってその僕がショートプログラムとフリープログラムと両方ともノーミスしきれるっていうことがほとんどなかったので、スケーターにとって人生で何回あるかと言われたら数えられないぐらいかもしれないですけど、僕には本当に数えるほどしかなかったので、やっぱり緊張感もすごかったですし、どうやってその前の試合の自分に勝つかみたいなことばっかり考えていたような気がします。
――羽生さんに対して聞くのは失礼かもしれないですけど、やっぱり僕アスリートだから、一つのステージを終えるって考えた時に、限界っていう言葉はどうしても僕の中にもあったし、体の限界って考えたら、それは本当に足首を含めてたくさんあったと思うんです。
その限界っていうのは、どう今回捉えてたのかなって?
(羽生結弦さん)多分テニスで捉えたら、これはプロが引退ではないんですよ。テニスで例えたらやっとアマチュアからプロテニスプレーヤーになれたぐらんなんですよ。
―― 今からですか?
(羽生結弦さん)だから、僕自身もこの体に関しては、もちろん足首が心配ってのもちろんあるんですよ。
練習しながらもちょっと今日大丈夫かなと思いながらとか、朝起きたら痛いなとかって思うことも多々あります。
ただ、特にこの4年間ぐらいですかね、平昌オリンピック終わって4年間、その間にもケガはありましたけれども、これだけ成長できたって、こんだけ練習に工夫のしがいがあるんだっていうことを学んだり、実際に上手くなってる自分を考えると、まだまだいけるなって。
もちろんその瞬発力とか、いろんな面に関しては、それは10代の頃とは比べ物にならないとは思うんですよ。
ただ、もっと上手くなってるし、もっと上手くなれるなって思います。
だってテニスプレーヤーで今40歳ぐらいでめちゃくちゃ上手い人いらっしゃるじゃないですか。
僕もフィギュアスケートってそういう、何だろう…例がないから分かりづらいだけであって、これからさらに上手くなれるんだって正直思ってるんですよね。
―― じゃあ例えば、心の限界って今日記者会見で、「ああ、そうだよな…」って羽生結弦っていう名前が、自分自身で重いって言い方、これも期待で、周りの想いですよ。
そこの心の限界みたいなのはどうだったんですか?
(羽生結弦さん)何回も心がなくなっちゃうっていうか、もうなんか無としてやってるときが多分ありました。
正直、一番きつかったときは、絶対に忘れないんですけど…言いたくないですけど。
そのときは本当に食事もままならなかったですし、正直ほとんど通らなかったですし、食べたくもなかったですし、でも、それでもやっぱり演技してる間は、やっぱ祈りとか、自分が表現したいことだったりとか、感情とか全部乗ってくれるんですよね。フィギュアスケートには。
僕がそうやってフィギュアスケートの中に感情を乗せられるのは、これだけずっと4歳から積み重ねてきた基礎だったり、技術だったり、そういったもののおかげでなので。
もちろん心が壊れてなくなりそうなことは多々ありますけど今も、だけどやっぱりスケートやってて皆さんに見てもらったりするのは楽しいなって。
でもそれまでの過程はつらいし、それまでの過程の中で自分が言葉を発せられないところで何か言われてしまったりとか、何も反論できない状態で、傷ついたりとかするときがやっぱり一番きついですね。
4回転アクセルへの挑戦
―― その北京オリンピックときに、僕は羽生さんの魅力は、弱さをさらけ出してくれるっていう、報われない努力ってあの言葉ですよね。なんか羽生さんの違う面を周りも見たような気がするんですね。
(羽生結弦さん)でも何かあれのおかげで、羽生結弦っていう完璧みたいな人間が、こういうところもあるんだなって思って応援しようと思ってくださった方々もたくさんいるっていうのを目にして、「あ、やっぱり良かったな」と思ったんですよ。
僕自身全然出るつもりは全くなかったです。正直言ってしまえば。
「もうさっさと4Aを降りて終わるんだ」と思ってたんですけど。
実際こうやって北京オリンピックというもので挑戦して、失敗して、つかめなくて、報われなかったっていうふうに思える自分がいて。
でもそれを応援してくださったり、その姿に何かを感じてくださる方々がたくさんいるという事実が、僕を今でもすくってくれていますし、僕もこれからまだまだ頑張って一緒に走っていただけるのであれば、一緒に夢というものを目指しながら走っていきたいなって思っています。
―― 僕は正直聞き間違いだろうと思ったことが1つあったんですよ。4回転アクセルやるって聞いたとき「はっ?」と思ったんですよね。どういうことでしょう?
(羽生結弦さん)せっかくここまで頑張ってきたんだから、まだ道半ばなので、ぜひ皆さんと夢を追わせていただけたら嬉しいなって思ってます。
新しいスタート
――(スタジオの大越さんに向かって)大越さん、今羽生さんと共に聞いてますけど、大越さんはどのように感じてらっしゃいますか?
(大越さん)確かに引退っていう言葉は必ずしも正確ではないのかなっていうふうに思うんですが、過去の自分とか周りの期待と、これからも、今度は違うステージで闘い続けるって言葉ありましたけど、明日からも休みなしですか?
(羽生結弦さん)元々全然休んでないんですよ、僕。
昨日も遅くまで練習してましたし、実際氷上にのぼってない間も練習したり、イメージトレーニングをしたり、食事も気遣ったり、いろんなことをしてます。
なんかまだ、引退という言葉とかピリオドっていう言葉に対してやっぱりマイナスなイメージだったり、寂しさとかもあると思うんですけど、ここから、さらに、さらにさらに上手くなるんで期待していただけたら嬉しいですね。
(大越さん) 世界中からの期待を受けて、いろんなことを背負ってきたと思うんですよ。今ちょっと荷を下ろして、ちょっとだけ休みますよって言っても誰も叱らないと思うんですけど、どうですか?
(羽生結弦さん)いや、別にそんな気持ちはサラサラないです。
むしろここからどういう演技を見せていくのか、どういう、自分をだしていくのかっていうことが一番大事な時期だと思っていて。本当に、もちろん自分の体は大切にしたいですし、会見でも言いましたように、自分の心も大切にしていきたい。
だけど、ここからどういう羽生結弦になるのかっていうのが一番皆さん気になると思うんですよね。だからこそ、頑張っていきたいです。
―― みんなたぶん「おつかれ様でした」とか「ありがとうございました」って声をかけたくなるんですが、それはちょっと違った捉え方なのかな?
(羽生結弦さん)なんか「お疲れ様でした」って言われるのちょっと悔しいですよね。なんか届いてないのかなって。
なんか悲しいなとか寂しいなって思うのは、ちょっと悔しいです。
でも、僕の本来の今の気持ちは正直言って、すごくすごく前を向いていて、で、皆さんにも前を向きながら一緒に戦い抜いてほしいなって思ってます。
―― 僕は1つのステージを卒業した…卒業って、英語で言うとコメンスメントです。コメンスメントって新しいスタート。まさにスタートを切ったって僕は羽生さんを見ています。
(羽生結弦さん)僕が16歳のときに修造さんにお話しした新しいスタートを今切れています。
―― 新しいスタートをみなさんで見守っていきたいと思います。
(羽生結弦さん)頑張ります。よろしくお願いします。