NHKは2022年2月10日、NHKで放送されたBS番組の内容について「公共放送に対する信頼を傷つけた」として、制作を担当したディレクターやチーフプロデューサーなど、計6人の懲戒処分を発表。
また、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会が同日、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めたと報道されました。
この問題の内容をまとめてご紹介します。
NHK字幕問題とは?
2021年12月26日にNHK BS1スペシャルで「河瀬直美が見つめた東京五輪」というドキュメンタリー番組が放送されました。
【BS1スペシャル】
— NHK大阪放送局 (@nhk_osaka_JOBK) December 26, 2021
河瀨直美が見つめた東京五輪
今夜放送! BS1
◇午後10:00~10:50(前編)
◇午後11:00~11:49(後編)
このあと放送です
「この夏」は私たちに何を残したのか?#東京五輪 公式記録映画を制作する #河瀬直美 さんに密着取材 ✨ https://t.co/otuer6Ezoq
この番組は、2022年6月公開予定の東京五輪公式記録映画で監督をつとめる、映画監督の河瀬直美さんや映画製作チームの制作現場にNHKが密着取材するという内容の番組で、NHKの大阪拠点放送局が制作したもの。
このドキュメンタリー番組の中で「五輪に対する多様な声を取り上げたい」ということから、五輪反対デモに参加しているという男性を取材。
この男性への取材のシーンで、(デモに)「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた。」という字幕をつけて放送されましたが、放送後に視聴者から「NHKはこの男性の発言の真実性を証明できるのか」「印象操作だ」「捏造では?」などという声があがり、放送終了後から騒動となっていました。
この問題について、NHKは当初「字幕は入れるべきでなかった」としながらも「捏造ではない」とコメントしていましたが、最終的に「事実確認が充分でないままに字幕をつけて放送した」として、NHKが内部調査の報告書を公表するとともに、改めて謝罪したというものです。
NHK字幕問題 何が問題?
問題となったのは、番組後編の開始から20分過ぎに放送されたシーン。
アゴラ編集部: NHK BS1スペシャル「河瀬直美が見つめた東京五輪」で捏造疑惑https://t.co/9aLaTPKwXm
— アゴラ (@agora_japan) January 11, 2022
NHKは、昨年12月30日に放送したBS1スペシャル「河瀨直美が見つめた東京五輪」の字幕に不確かな内容があったとし謝罪しました。 番組…
五輪反対デモに参加しているとされた男性が、五輪のデモについて語る場面で、
<五輪反対デモに参加しているという男性>
<実はお金をもらって動員されていると打ち明けた>
という字幕付きで放送されました。
このシーンでは男性へのインタビュー音声も流れ
男性「デモは全部上の人がやるから(主催者が)書いたやつを言った後に言うだけ」
質問「デモいつあるとかは、どういった感じで知らせがくるんですか?」
男性「それは予定表もらっているから、それを見て行くだけ」
というやりとりも放送されています。
字幕を見ると男性が「五輪デモにお金をもらって参加した」という印象を受けます。
しかし実際は、男性が五輪反対デモに参加していたかどうかの事実確認を行っていなかったとのこと。
NHKが出した報告書によると、番組で放送された部分以外に「ご飯代ぐらいのお金をもらって、いろいろなデモに参加している」、「五輪反対デモは行かない」、「コロナが増えるから自分としては五輪はやめた方がいいと思う」という主旨の音声が撮影素材に残されていたとのこと。
また男性が、カメラが回っていないところで「デモに参加することで2000円程度もらうことがある」、「五輪反対デモに行ってみたい」という話をしていたと説明。
しかし、その後NHK内部調査チームの聞き取りに対し、男性は「(取材があった)8月7日以降も、五輪反対デモには参加していない」と証言したことから、男性が五輪デモに参加したという確証は得られなかったため、字幕の内容は誤りだったと判断しました。
また、この男性を撮影した映画スタッフである島田角栄氏の「プロの反対派」という発言も問題視されました。
この島田氏(映画監督)は、河瀬直美さんの東京五輪公式記録映画の映画製作チームの1人。
問題となったNHKのドキュメンタリー番組内で「プロの反対側もいてるし、本間に困って反対派もいてはるし…」と発言。
「映画スタッフ(注:島田氏)は、調査チームのヒアリングに対し「プロの反対側」とは、強い思いをもってデモに参加している人たちのことであり、当該シーンの男性のことは全く念頭になかったと否定」
— 杉原こうじ(NAJAT・緑の党) (@kojiskojis) February 10, 2022
にわかに信じ難い。怪しい男性をわざわざ取材した事と全く整合しない。https://t.co/IgXfHAETzN pic.twitter.com/v3Ug1DTDbQ
この発言についても「視聴者に“東京五輪反対デモにはお金で動員された人達がいる”という事実の裏付けがない特定の印象を植えつけようとした。」などとして、異論が噴出し、騒動になりました。
NHKの報告書によると、この件に関して映画スタッフに改めて発言の趣旨を確認し、その結果「“プロの反対側”とは、強い思いを持ってデモに参加している人達のことであり、当該シーンの男性のことは全く念頭になかったと否定しています」と発表。
これに対してSNSでは
NHKの報告書を読んで驚いたのだけど島田角栄監督@shimadakakuei の言う「プロの反対側」とは「強い思いを持ってデモに参加している人」のことなんだってさ。そんな取ってつけたような言い分、誰が信じるかよ。 pic.twitter.com/ihPFdd15jD
— 反五輪の会 NO OLYMPICS 2020 (@hangorinnokai) February 10, 2022
「プロの反対側もいてるし ほんまに困って反対派もいてはるし」(島田氏) ←「プロの反対側」が「強い思いをもってデモに参加している人たちのこと」だとすれば、「ほんまに困って反対派」はどんな思いをもった人たちなんだ?
— えすゆま (@Sch_UMA) February 11, 2022
支離滅裂じゃないか。https://t.co/zCuErUkBbV
などとして、報告書の内容を問題視する書き込みがありました。
NHK字幕問題の責任の所在は?
報告書によると、今回の番組はすべてNHKの責任において制作したもので、番組の構成や内容はすべてNHKが判断したと述べられています。
問題となった字幕の場面についても、「五輪に対する多様な声を取り上げたいとして、NHKが取材した約10名の中からディレクターの判断で選択しました。この判断に公式記録映画の関係者は一切、関わっていません。」と説明。
報告書によると、最初の試写段階での字幕は
<かつてホームレスだった男性>
<デモにアルバイトで参加していると打ち明けた>
としていたが、男性が五輪反対デモに「行く可能性がある」と話していたことや、「(以前)お金をもらってデモに参加していた」と話していたことから、番組スタッフらの思い込みによる判断で、最終的に
<五輪反対デモに参加しているという男性>
<実はお金をもらって動員されていると打ち明けた>
という字幕になったとのこと。
デモに「参加した」と断定した字幕でなければ問題ないという認識だったようですが、実際番組スタッフは問題が発覚するまで男性の連絡先を把握しておらず、男性が五輪反対デモに参加したかどうかを確認していませんでした。
これらの問題についてNHKは「あいまいな情報をもとに、裏付け取材が行われないまま番組の制作が進み、上司によるチェックも十分行われなかった」として「再発防止に取り組み、信頼の回復に努めてまいります」とコメント。
また、番組を制作した大阪放送局のディレクターとチーフプロデューサーを停職1カ月とするなど、計6人を懲戒処分にしたと発表しました。
また、監督である河瀬直美氏や島田角栄氏など公式記録映画関係者による今回の問題への関与については、あらためて否定し謝罪しています。